七月大歌舞伎
もう8月になってしまいましたが、先月の終わりに松竹座で「七月大歌舞伎」を見てきました!
昼夜ともに、まさに夏芝居。思わず背筋が凍るような殺人劇。
舞踊二つはちょっと「正月か?」と思ったけど(笑)、松竹座20周年をお祝いしているのかも。

まずは昼の部「夏祭浪花鑑」。
染五郎さんが初役で団七九郎兵衛を演じました。
その当時の人々のリアルを見せる上方のお芝居ですので、ただかっこいいだけでは演じられない、弱さも気苦労もある団七。
染五郎さんの団七には、強欲な舅を思い止まらせるため、金を持っているように見せかけようと必死で石をかき集める様子に、人間味や哀れさを強く感じました。
一寸徳兵衛には松也さんという清新な配役。
今回は「長町裏の場」で終わっていたので、終盤の徳兵衛の見せ場がなくて残念だったのですが、最初の住吉で鳥居から現れた姿のかっこよさに思わず唸りました。
演技的には、声が少し聞きとりにくかったものの(夜の部ではハッキリ聞こえていたので、昼は役柄を意識するあまり無理して声を低く作りすぎたのかも…)、鉄火肌で感情豊かな人物像をしっかりと出していたと思います。
孝太郎さんのお梶は、さすがに何度も染五郎さんの相手役を演じているだけあって息もぴったり。止め女の気丈な様子がよかった。優しいだけではない、しっかり者の女房を好演していました(お梶はあの強烈な父親と団七の間に立って実によくやっていると思います(なんかえらそうだね、私…))。
橘三郎さんの義平次は以前も見ましたが、さらに欲にまみれた感じを出し、かなり突っ込んで演じていて、ほんとにすごいなと思います。
また、表面的には人当たりがよいという面もあって面白いです。
それにしても、あんなに泥にまみれて息は苦しくないのかとつい気になってしまいますね。
鴈治郎さんの釣舟三婦の人情味、気概はもうお手の物と言っていいでしょう。
この人の三婦を見ると「ああ、『夏祭』を見てよかったぁ~」という気分になります。
その三婦の女房・おつぎを演じる竹三郎さんが休演明けで元気になっていて嬉しかった!
いかにも上方の庶民の女房という感じがさすがです。
時蔵さんのお辰は、まず涼やかさと若々しさに目を奪われました。
そして、彼女の気性の激しさや正義感の強さ、気風の良さが時蔵さんの演じる女形にぴったりだな~と感心しました。
若手の2人。
萬太郎さんの玉島磯之丞は、最近こういう役をたくさん演じるようになって、つっころばしの柔らかさが板についてきたな~と思いました。
髪結床の下剃三吉を演じる廣太郎さんは、何気ないところに、一般の客だけではなく侠客や赦免になった罪人も相手にする土地柄を感じさせてなかなか良かったです。

「二人道成寺」は、時蔵さんと孝太郎さんが華やかで美しく、入れ代わり立ち代わり現われて様々な舞を披露するのですから、そりゃーもうドリーミング!
けれど、ただ美しいだけではなく、終盤の振付に、蛇体となった清姫の思いが籠っているように見えました(しかも二人なので、より強くそれを感じるんだよね)。
それ以外の場面でも、舞の上手さだけでなく表現のすばらしさに目が釘付けになりました。
私は詳しいことは分からないのですが、動きの一つ一つにちゃんと意味があるように感じられました。
上方の若手勢揃いの所化たちは生き生きと楽しく、また一段の成長を感じました。
所化もまた、なんとなくそこにいるのではなく、きちんと意味があると感じられる存在のしかただったと思います。

夜の部の最初は「舌出三番叟」。
祝い事などで演じられる「式三番叟」よりはちょっとくだけた感じの三番叟なのですが、おごそかで優美な雰囲気がありました。
鴈治郎さんの三番叟は福々しく、どこか博多人形を思わせるようなはんなり感が漂っていて、祝祭の風情にぴったり。
壱太郎さんの千歳は女千歳でめちゃくちゃキレイ!優雅な舞にうっとりでした。

そして、ラストは「盟三五大切」。
赤穂浪士をモデルにした塩冶浪士である男が、女に騙され、仇討のために貯めた金を取られ、その恨みに何人もの人々を殺めるという陰惨な物語ですが、作中にあふれているのは愛を弄ばれた主人公・源五兵衛の悲しみ。
そして、作者・鶴屋南北が投げかける「忠義って何だろう?」という疑問。
江戸時代は今よりももっと「物言えぬ時代」。でも、やっぱりこういう疑問は人々の心の中に湧いてたんだろうな~と感じました。(それにしても、こんな本を書いてよく南北さんの首が飛ばなかったなと思いました。)
そういったものも含めて、建前ではないリアリティ、登場人物たちの複雑な感情は、江戸の作品ながら上方狂言に通じるものがあります。
仁左衛門さん演じる源五兵衛は、仇討に加わりたいのに芸者に入れあげてどーしようもない人だと思うけど(笑)、純情な男の一途さが切ない。
騙されて金を取られたこと以上に愛を裏切られた苦しみから、どこまでも小万を追いかけていって、ついには殺してしまうのですが、彼女の腕の「三五大切」の入れ墨を見、更に夫・三五郎との間に子どもまでいることを知って、彼女の心が自分のものでないと実感してしまったショックはどれほどだったかと、こちらも胸が痛くなる思いでした。
染五郎さんが昼夜共に大活躍!三五郎は悪いことをしているんだけどかっこいい。
また、小万に対するちょっとすねたような口ぶりがいい。彼はきっと、小万の揺るぎない愛情に甘えているんでしょう。
忠義のため(そして、父からの勘当を解くため)に金を集めようとする三五郎は、悪知恵が働くあまり、皮肉な結末を迎えてしまうわけですが、「忠義のためならどんな罪を犯してもいいのか?それは本当に忠義と言えるのか?」「そこまでしなきゃいけない忠義っていったい何なんだ?」という南北の声が聞こえてきそうでした。
時蔵さんの小万ことお六。「妲己」の異名を取り、していることだけ見たら悪女なんですが、惚れた三五郎のために、ついつい男を騙してしまう 悪女になりきれない女。
源五兵衛に子どもを殺されそうになって、「二人が仲の子」と言う台詞に、心の底から三五郎に惚れてしまってるんだなーと思いました。
このお芝居は、登場人物が多く、全員がしっかり頑張らないと成り立たないのですが、橘三郎さん、松之助さんをはじめ皆さんの活躍ぶりが嬉しく、みんな上手くておもしろかった(人が恐怖を感じた時にどう振る舞うか、それを強く感じさせた仁三郎さんが印象に残っています)。
だけど、おもしろうてやがて悲しき…。皆が上手いからこそ、やはりこの物語は陰惨で苦しくて悲しいものだと感じました。
けど、「本日はこれぎり」でちゃんと現実に戻り、こちらの気持ちも救われてしまうんだから、歌舞伎って不思議。
必要以上に後味を悪くさせないのも、大衆エンターテインメントである歌舞伎ならではなのかもしれません。
スポンサーサイト
ほっとした
獅童さんが11月に復帰です!
よかった~。ほっとしました。
復帰していきなり巡業なのはびっくりしたけど、「いがみの権太」はさぞかし似合うだろうなと思います。
見たいけど、一番近いロームシアターが「貸切」って!なんでやねん(笑)。
やじきた
ずっと周回遅れのレポばかりでしたが、やっと今月の話題に入ります。
といっても、月初めの頃の話ですが…(笑)。シネマ歌舞伎「やじきた」見てきましたっ!
私にとっては初めてのシネマ歌舞伎。
歌舞伎を映像で見たらどうなるんだろうと思っていましたが、拍手ができないことを除いて(舞台を観る者の癖なのか、シネマ歌舞伎に限らず素晴らしい映画を見ると拍手したくなるんですよね…)、とっても楽しかった!でも、やっぱり生の舞台が見たくなりました(笑)。

ドリフっぽい場面があったり(猿之助さんが「志村じゃねえよ」と言ってた(笑))、ラスベガスまで行っちゃったりと奇想天外な「やじきた」。
染五郎さんと猿之助さんという、才能と才能のぶつかり合い、アイディアとアイディアのぶつかり合いにワクワクしました。
この二人、笑いにかける気持ちもすごくあるんですよね(笑)。
そこに加えて獅童さんです。演技のハチャメチャぶりに大爆笑!(無事に退院されてほっとしています。また楽しい舞台を見せて下さいね)
夏休みならではといいましょうか(上演されたのは去年の8月)、金太郎さんと團子さんも大活躍!
二人とも、とっても可愛かった!
團子さんの台詞回しがお父さんの中車さんによく似ていてびっくり!
上は寿猿さん、竹三郎さんから、下は子役ちゃん(金太郎さんよりももっと年下の子が出ています)まで、皆生き生きとしていて、演じる方も見る方も「やじきた」ワールドを満喫できた感じでした。
今年の夏も歌舞伎座で「やじきた」第2弾があります。
生では見れないけど楽しみだな~!(またシネマ歌舞伎で見る?(笑))
嬉しかったこと
ここ最近、歌舞伎界で嬉しかったことがいくつか。

ひとつは、先月襲名披露された坂東彦三郎さんが「演劇界」今月号の表紙に!
「わーい、やったぁ!亀ちゃん!!」と思って「あ…彦さん…」と心の中で言い直しました(笑)。
猿之助さんのことはもうさすがに「亀ちゃん(前名は亀治郎さん)」とは呼ばなくなったけど、彦三郎さんは4月まで亀三郎さんだったからなぁ~。
ちなみに、今の「亀ちゃん」はカワイイ4歳の坊やです。通称「倅マン」(笑)。

もうひとつは、中車さんが舞踊会で「藤娘」を踊られること!
歌舞伎や日本舞踊を見たことがない人でも知っているほどの古典的名作、しかも女形です!
歌舞伎界に入って5年、舞台など私たちの目に触れる部分はもちろん、それ以外にもどれだけ努力を積まれてきたことかと、思わず感動してしまいました。

そして、獅童さんが退院されました!
ゆっくりと体力の回復に努められて、元気で時にハチャメチャな(笑)舞台をまた見せて下さいね。
五月花形歌舞伎
もう今日が千秋楽なんですが、8日に松竹座で「五月花形歌舞伎」を昼夜通しで見てきました。
前日にいきなり微熱を出し(楽しみにしすぎたんだろうか?)、体調がいまいちだったのですが、それでも熱中して見られるほど楽しかった!終わるころにはだいぶ調子が良くなってました(笑)。

今月の松竹座は猿之助さん・勘九郎さん・七之助さんが座頭の、若いパワーあふれる熱狂の舞台です。
もちろん寿猿さんはじめベテラン勢も元気いっぱいです(そういえば、寿猿さん、87歳のお誕生日を迎えられましたね)。

まず、昼の部の最初「戻駕色相肩」は、勘九郎さん・歌昇さん・児太郎さんというフレッシュな顔合わせ。
勘九郎さんと児太郎さん、歌昇さんと児太郎さんはよく共演しているイメージがありますが、勘九郎さんと歌昇さんの組み合わせは今までにあまりなかったので新鮮。私は初めて見ました(まあ、親戚同士だし、お父さん同士はよく共演してたんだけどね)。
勘九郎さんが若い歌昇さんをぐいぐい引っ張り、歌昇さんも臆することなく食らいついて、とても良い感じ。
勘九郎さんの浪花の次郎作が遊女の踊りをするところは、ユーモラスさの中になんともいえない艶が感じられ、見ごたえ十分。
またこの二人で組んでほしいですね。
児太郎さんの禿(かむろ)たよりは美しく(お正月に見た時も思ったけど、どんどん美しくなりますね)、上背があるにもかかわらず少女の風情が素敵。
「私が禿ゆえ(相手にされないの?)」と落ち込むところの愛らしさといったら!
最後に次郎作と与四郎の二人が正体を表すところでは、歌昇さん、また久吉だぁ~と思った(笑)。
役の心は「金閣寺」の久吉に通じるところがあるので、二月の経験が役に立ったかもしれません。

つづいては「金幣猿島郡」。すごくおもしろかった!
猿之助さんの清姫と忠文、勘九郎さんの頼光、七之助さんの七綾姫という配役が本当にぴったり!
このお話は、めちゃめちゃざっくりと要約すれば、嫉妬は怖いよ~!ということなんですが(笑)、清姫・忠文ともに嫉妬する姿にセクシーさが感じられます。
片岡秀太郎さんが著書で「死ぬシーンも美しくセクシーに死ななければならない」ということを書いておられたんですが、嫉妬で鬼や蛇になろうともセクシーであるというところにお芝居の面白さ、凄絶美を感じました。
清姫が蛇体になって鐘に巻き付く(帯が三角形の鱗文様なのはこのためなのね)ところは青白くもパワフル。
怒りの表情もセクシー。パワーとセクシーさが噛み合わされば、鬼に金棒(笑)。すごい迫力です。
ああ、それにしても、七綾姫も可愛い顔してけっこうワルイというかヒドイというか…(笑)さすがは将門の妹だけある。そりゃー忠文も恨むわ。
押し戻しの歌昇さんは声がとても聞きやすくなり、若いパワーが役にぴったり。爽快でした。

夜の部の最初は「野崎村」。
今回座った席のせいなのか何なのか分からないんですが、役の心がダイレクトに伝わってきて、とてもおもしろいし、切ない。
七之助さんのお光が本当に可愛くて、切なくて、彼女の真っ正直さと健気な決心に胸が痛くなります。
お染の児太郎さんも、久松への愛のために自害も辞さないような情熱に加えて、都会のお嬢様の儚げな感じも出ていて上手かったです。
二人とも、本当に男性なのかと思うくらい美しかった!
歌昇さんの久松は柔和な感じが役に合っています。
細かい心の動きもよく伝わってきました。
終盤、一心にお光に詫びながら駕籠に揺られていく久松の目に涙が…。
これで一気に久松に感情移入してしまいました。
久松も単に優柔不断でこんなことをしているわけじゃないんだな~。
みんな切なくて、みんな辛い…。
そしてやっぱり、この演目を左右するのは父親の久作です。
彌十郎さんの久作は、周りの人に対する気持ちの深さを感じさせて、思わず涙が出そうに…。
お光は久作の実の娘ではなく、妻の連れ子。
それゆえに、本当の父親と同じ思いもありながら、義理の仲であるために、病身の妻に対して人一倍申し訳なく思う気持ちもあり、どんなに苦しい、悲しい胸のうちだろうかと思ってしまいました。
また、死に急ごうとするお染と久松を二人を説得するところにも深い愛情が感じられます。
成駒屋、澤瀉屋、中村屋、それぞれの一門を代表するようなお弟子さんたちの活躍も嬉しいところ。
とくに芝のぶさんはいつも美しく、声も可愛いです。
駕籠かきの猿四郎さん、実際に駕籠を担いで汗を拭くシーンがあり、セクシーだったわ(笑)。

続いては「怪談乳房榎」。
勘九郎さんの三役早変わりが見どころ。
落語を元にしているので、話もとても分かりやすかったです。
勘九郎さんは、三役の中では実直な正助が一番似合っていた気がするなあ。
でも、うわばみ三次のかっこいいことといったら!立派な人柄ではない小悪党の色気が横溢していました。
滝の場面に至るまでの幕間(?)では、弘太郎さんが舞台番の弘吉として出てきて、前のお客様は水がかかるのでビニールシートをかぶって下さいと楽しく説明しているのですが、突然、勘九郎さんのうわばみ三次が二階席を走り抜け、三階席にも登場!
私は三階席の舞台に一番近いところ(歌舞伎座や南座でいえば、桟敷席の上にあたるところですね)で見ていたので、どちらもバッチリ見ることができました。ホント、いい席が取れたなぁ~!感謝(笑)。
猿之助さんは初めての色悪だという磯貝浪江を演じています。
勘九郎さんが三役早変わりで見せ場が分散されていることもあり、通しで悪の魅力を見せる浪江が陰の主人公のように見えました。
猿之助さん、今月は昼も夜も七之助さんに「思いを遂げさせろ」と迫る役だなあ(笑)。
それにしても、出てきた時から目の色気がすごかった。演技も余裕があって素敵。
七之助さんのお関は、お光とはガラッと違うご新造さんで大人っぽい雰囲気。
美しさゆえに流されて、ついには悪人の女房になってしまう。自覚なく悪い道に染まってしまうのは怖いなと思います。
そして、つくづく美しさというものは罪なのだと感じました(笑)。
このお芝居最大の見せ場は、何といっても本水の滝での立ち回り!
しかも、勘九郎さんはここでも三役の早変わりを見せてくれます。
勘九郎さんも、名前は書かれていないんですが吹き替えの役者さんたちも、水の中で立ち回りながら入れ替わったりするので息が苦しくないのかと思わず心配するほど。
でも、演技が必死だからこそ観客は熱狂できるんですよね。
ラストシーンで「本日はこれぎり」と終わるのも、歌舞伎らしくてよかった。

今回、昼夜通しで見て、澤瀉屋・中村屋のお互いのホームグラウンドといえる演目に、それぞれが出演しあうことによって、相乗効果のみならず、これから彼らの中で新しいものが生み出されて、近いうちにそれを目にすることができるのではないかという期待まで感じさせてくれます。
座頭三人の顔ぶれの豪華さゆえ、大阪ではもう当分こんな顔合わせは見れないんじゃないか…とも思ってしまいますが(世の中やっぱり東京一極集中なんだろうな…と落ち込む)、演じるたびに大きく花開く彼らの活躍をもっと見たいので、ぜひこれからも、松竹座で花形世代の面白いお芝居をたくさん上演してほしいと思いました(関西の歌舞伎ファンというのはまた、どんな実験的な演目にも、どんな若手やお弟子さんたちにも「ええやん、やってみいや。面白かったらそれでええやん」とけしかける(笑)風潮があるように思います(私も含めて))。