「恨み晴らせよ、兄弟」-南座・顔見世-
5日に勘三郎さんの訃報が飛び込んできて、私も涙をこらえることができない日々を送っていましたが、舞台で頑張っている勘九郎さんや七之助さんのことを思うと、泣いてばかりもいられません。
二人の息子さんや、勘三郎さんを愛した歌舞伎界の方々を応援する気持ちで、7日に南座の顔見世(昼の部)を見てきました。

まず最初の演目は「佐々木高綱」。
岡本綺堂の新歌舞伎で、我當さんが高綱を演じます。
話がとても分かりやすく、初めて歌舞伎を見る人にもおすすめです。
そして、分かりやすいばかりではなく、人間の善と悪とは何か?という深い問いかけを持つ作品でもあります。
こういったところに、新聞記者でもあった綺堂の観察眼が生かされているのではないかと思いました。
鎌倉時代初期の設定で、もう若くはない高綱が主役ということで、地味になりがちなところは否めませんが、そこにも、高綱の娘・薄衣(新悟さん)のお姫様姿や甥・小太郎(進之介)の大鎧姿が華やかな彩りをもたらしてくれます。
高綱が斬ってしまった馬飼の遺児である、おみの(孝太郎さん)・子之介(愛之助さん)姉弟の高綱に対する気持ちの違い、すべてを見守る高野山の僧・智山(彌十郎さん)の姿も印象的で、終わった後も考えさせらる作品だったと思います。
あと、愛馬・生月が可愛かったです!

次の演目は「梶原平三誉石切」。「石切梶原」の名前で有名な狂言で、「佐々木高綱」に名前だけちょっと出てきた梶原景時が主人公です。
時代設定は「石切梶原」のほうが先で、ちょうど今、大河ドラマの「平清盛」で放送されている辺りです。
団十郎さんの梶原は文句なしの華やかさ!颯爽とした姿が印象的です。
六郎太夫(彌十郎さん)・梢(七之助さん)父娘の、互いを大切に思う親子の情に心打たれました。
勘三郎さんを失った後ですので、この二人のやりとりを見ていると、思わず涙が出てしまいます。
お二人ともどれだけ辛いことだろうと察する気持ちからか、七之助さんが出てきた瞬間から「中村屋!」のかけ声がいつにも増して多く、それにもまた涙してしまいました。
左團次さんの大庭のずっしりした味わい、男女蔵さんの俣野の激しさが好対照。ことに男女蔵さんは汗びっしょりの大熱演でした。
罪人・剣菱呑助(市蔵さん)の「酒づくし」が面白く、どうしても湿っぽくなりがちな時期に楽しさをもたらしてくれたと思います。

続いては、勘九郎さんの襲名披露狂言「寿曽我対面」。
去年の顔見世でも上演されましたが、今回は勘九郎さんの曽我五郎、仁左衛門さんの工藤祐経、ともに初役という見どころいっぱいの「対面」。
勘九郎さんは、大きな声と今にも飛びかからんばかりの勢いで五郎を表現。抑えた演技の十郎(時蔵さん)もさすがに挙措が美しかったし、見た目もかっこよくて綺麗でした。
仁左衛門さんの工藤は、去年演じた我當さんと芸風がよく似ていて、さすがに兄弟だなーと思いました。
工藤には時節が来れば自ら曽我兄弟に討たれようとする大きさが必要ですが、仁左衛門さんには若い者たちに対する包容力を感じました。
また、狩場の切手を兄弟に投げ与えた後の「恨み晴らせよ、兄弟」というセリフが、勘九郎さん・七之助さん兄弟に対して「のりちゃん(勘三郎さん)の仇をとる気持ちで素晴らしい役者になれ」と言っているようで、どうにもこうにも涙を抑えることができませんでした。
去年と今年との一番の違いは、舞鶴が朝比奈に変わったこと(これがもともとの形)。
橋之助さんは最近いろいろな役をこなしているのですが、その多彩さが朝比奈を演じる上でも糧になっているなと感じました。
翫雀さんの鬼王新左衛門はハッキリした声で、少ない出番でも非常に清々しいものを感じました。

切は「吉田屋」。
一度、藤十郎さんの夕霧、扇雀さんの伊左衛門で見たことがあるのですが、今回は逆で、藤十郎さんの伊左衛門、扇雀さんの夕霧でした。
とにかく、藤十郎さんの伊左衛門が可愛いっ!
コタツの上に座ったり、すねて寝たふりをしてみせたり、やることなすこと可愛くて、夕霧がどうしても想いを断ち切れないのが分かる伊左衛門でした。
この間、テレビ番組で菊之助さんが「山城屋のお兄さんの雰囲気は、すべてが丸く、やわらかい」と言っていたのですが、それもうなずける感じ。
扇雀さんの夕霧は端正な美女で、憂いがあってうっとりしてしまうような美しさ。そういえば、伊左衛門を演じたときも端正な美しさがあったなと思い出しました。
彌十郎さんは吉田屋の主人・喜左衛門で、昼の部3度目の登場。
間違いなく昼の部の功労者だと思います。江戸の役者さんですが、優しさがやわらかさにつながっていたと思います。
名子役・吉太朗さんの禿も可愛かった。伊左衛門を相手に、ツンとすましてみせるところが愛らしく、笑いとかけ声が起こっていました。
ラストに伊左衛門の実家から夕霧の身請のお金が届くのですが、その千両箱の数の多いこと!とても豪勢です。
以前は「こんなうまい話があるのか」と思ったりしていたのですが、これは江戸時代から変わらない「庶民の夢」なんだなーと感じて、どこか胸のすく思いがしました。

追記
maneki
今年の「まねき」です。
この前ブログに書いた、千壽さんと、同じく名題披露した松次郎さん改め松十郎さん(以前書きそびれててごめんなさい)のまねきも上がっています。
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