七月大歌舞伎 昼の部
12日に昼の部を見てきました。

まず最初は(というか、大部分の時間がこの演目なのですが)「柳影澤蛍火(やなぎかげさわのほたるび)」。
題名は涼しげですが、柳澤吉保を中心に、人々の欲と色とが絡み合うという、非常にドロドロとしたお話です(笑)。
歴史上の人物を登場させながらも、史実にとらわれない大胆な脚色をほどこし、吉保の悪の魅力を際立たせています。
彼は自分の出世のために何人もの人を殺し、権力をほしいままにしますが、結局、最後に残ったのは「愛」ただ一つであったという、新歌舞伎(昭和45年初演)らしいテーマを持っている作品です。  
橋之助さんの主演作は何度か見ていますが、以前に見た作品も悪の主人公でした(笑)。悪くて美しくてカッコいい男が似合うんですよねー。とくに桂昌院を殺した後でニヤリと笑う姿がニヒルです。
吉保の許婚で、彼の野心によって将軍・綱吉の側室にされるおさめの方は福助さん。
吉保と貧乏暮らしをしていた時(吉保の父の養女になっているのか、彼を「お兄様」と呼んでいます)と、側室となってからのセリフ回しが変わっているのですが、昔の「おさめ」の心に戻った時には元のセリフ回しに戻っていて、彼女の心の変化が興味深かったです。
この作品で一番の敢闘賞といえば、やはり桂昌院を演じた秀太郎さんでしょうか。
将軍の母となったことで欲望のままに生きるようになり、その欲望によって死を迎えるという女性ですが、何よりも華やかさがあり、年増の色気と貪欲さが存分に出ていたと思います。
桂昌院は元は京都の人なので、ねっとりとした京言葉なのもすごく合ってました!
桂昌院に取り入る僧・隆光は「もうひとりの吉保」ともいうべき存在。
しかし、彼も実は弱い一人の人間であり、ふと良心が芽生えたことで吉保に斬られてしまう。
今にも人間らしい心を失ってしまうかのような吉保と、最後に人間らしい気持ちを持てた隆光、一体どちらが幸せだったのだろうか?と思ってしまいました。
扇雀さんの立役は久々に見たような気がしますが、美僧にはぴったり。いかにも頭が良さそうな策士でした。
吉弥さんの成瀬金吾は能役者から柳澤家の家来に取り立てられ、スパイのような役目をする役。どこまでも吉保についていこうとする健気な若者ですが、隆光を斬ろうとする吉保を止めたために斬られてしまいます。
腹心の部下までも感情に任せて斬ってしまったところに、吉保が自分を見失って欲望に踊らされている様子がよく出ています。
ほかに、若々しさと滑稽さ、身分の高い者の品格をうまく出した将軍・綱吉の翫雀さん、美しさと華が増した孝太郎さん、二枚目の演技の幅が広がった薪車さん(小姓姿も可愛かった(笑))、静かな芝居が印象的な亀鶴さん、お姫様らしくおっとりしすぎなセリフ回しが笑いを誘う児太郎さん、そして桂昌院の女小姓として居並ぶ美しい中堅・若手女形の皆さんなどなど、皆華やかで、いかにも元禄時代といった感じでした。
ラストシーンは凄惨ながら、萩の花に蛍が飛び交うところが美しく(萩の時期に蛍がいるのは本当はおかしいんですが、そこは芝居の嘘で、現実にはない美しさを演出していたと思います。)、蛍の命の儚さとその光の華やかさに、吉保の運命を重ねて見ることができました。

そして、舞踊「保名(やすな)」。
安倍清明の父である保名の若き日、恋人の榊の前を亡くして狂乱する姿を舞踊にしたもので、天下の二枚目・仁左衛門さんのはんなりとした美しさ、そして哀しさが胸を打ちます。
背景は菜の花の咲き乱れる春の野原で(実は、舞台は現在の大阪の阿倍野!今の大都会からは想像がつきません)、まさに夢まぼろしのような、幻想的な舞台でした。
もっと見ていたいな…と思う時に終わるのも、絶妙の長さでちょうどいいなと思います。
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