熊谷の涙 -文楽「一谷嫰軍記」-
一月に引き続いて文楽に行ってきました。
今回も幕見ですが、「一谷嫰軍記」の前に吉田玉男さんの襲名披露口上があったので、いちおう二本見たことになります(笑)。
文楽の口上は初めて見ましたが、全員が薄紫の裃に黒紋付でずらりと並ぶ様子は壮観。
歌舞伎の口上は襲名される方も話をされますが、文楽ではご本人は話されないのね。
でも、豊竹嶋太夫さんをはじめ、鶴澤寛治さん、吉田和生さん、桐竹勘十郎さん、竹本千歳太夫さんから、心温まる、楽しいメッセージを聞かせていただきました。
和生さんと勘十郎さんは玉男さんの同期で、入門された当初の玉男さんはまだ中学生で、丸刈りの少年だったとか(笑)。

さて、「一谷嫰軍記」です。
この演目も歌舞伎で見たことがありますが、たいへん悲しい、心苦しい話でありながら、深く心を打つものだと感じました。
熊谷の奥さんの相模や、かつて相模が仕えていた藤の方の悲哀にもグッときますが、最後まで涙を見せない熊谷が「十六年は一昔、夢であったな」とつぶやいた時の表情に思わず涙…。
熊谷は人形なので涙は流れないのですが、あのなんともいえない表情は、「彼も確かに涙をこぼしていた」といえるものでした。
我が子を手にかけた彼の苦しみと出家への思い、そして、若い命を散らした息子・小次郎が、若くても必死の覚悟を持った武将であったことが感じられてウルウル…。
それにしても、相模が首を見るところは、いつ見ても胸がキリキリ痛みます。なんという辛いことだ…。
主筋に絡む人々も充実。
白毫の弥陀六の物語はとてもおもしろく、興味深く聞くことができました。
あと、藤の方の足遣いの人が上手かったな(誰なのでしょう?)。
もともと脚が作られていない女性の人形なのに、きちんと膝の位置が分かったり、動きも研究されている感じがしました。

今回を含め、最近、文楽の幕見では重厚な時代物を見る機会が多いので、今度はリアリティある世話物も見たいなあ。
歌舞伎もですが、文楽は特に時代と世話とで雰囲気がガラッと変わるので面白いですね。
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