二月花形歌舞伎
嬉しいことに、今月も大阪で歌舞伎を観ることができました!(余談ですが、私のPCでは「おおさか」と打つとまず最初に「大坂」と変換されます。江戸時代か!(笑))
今月は若手が大活躍の花形歌舞伎です。

まずは昼の部。
最初の「渡海屋」「大物浦」は、幕開きから當十郎さん、鴈之助さん、扇之丞さんら、上方を代表するベテランのお弟子さんたちが出ていてちょっとびっくり。これは若手も張り切らずにはいられないでしょう。
最初は世話物的な場面で、若手にはまだちょっと難しいのかなと思ったんですが(世話物は人生経験が出てしまうから難しいんだろうな~と思った)、話が進むにつれて、彼らの著しい成長ぶりを感じました。
ほんと、みんな存在感が増したなあ。
その中でも、やはり経験値が物を言うのか(上方は江戸に比べて人数が少ないこともあるからか、若手やお弟子さんたちにも活躍の場が回ってきます)、典侍の局を演じる壱太郎さんは落ち着いていて上手いなと感じました。
松也さんの知盛は、芸としてはまだこれからなのかもしれませんが、感情がストレートで、死へと向かう気持ちが生々しいほどリアルに伝わってきます。
あと、やっぱり「昨日の敵は今日の味方」というセリフは泣かせるなあ。
総体的に、一人の人間としての面がよく出ていた知盛でした。
新吾さんの義経もよかった。
義経役は御大将の品格が必要とされるため、感情を表に出さず、歩くスピードや体の向き、顔の角度などで気持ちを表現しなければならないので難しいと思いますが、控えめな表現の中に哀感が漂うところが良かったと思います。
歌昇さんの弁慶は、隈をとった顔が伯父の歌六さんによく似ています。
どちらかといえば小柄な歌昇さんですが、挑みかかる知盛から義経を守ろうと立ちはだかるところには大きさを感じました。

「三人形」は、とても華やかで楽しく美しい舞踊。
若衆・傾城・奴の人形に魂が入って動き出すという趣向なのですが、まさに木目込み人形のような三人の姿をほのぼのと見られる演目でした。
梅枝さんの若衆。
立役の梅枝さんはあまり見たことがなく、大股で歩いていることにさえびっくりする始末(笑)。
けれど本当に美しく、色気があって見とれてしまいます。
新悟さんは今まで御殿女中のような役が似合うイメージが強かったので、傾城で艶やかに微笑みながら踊る姿が新鮮でした。
そして、種之助さんの奴。彼はこういう役がホントによく似合う!
闊達で明るく、また、足拍子やジャンプ力もすごい。
粋な奴さん、また見たいなあ。「供奴」とかやってほしいな。

夜の部の初めは「祇園祭礼信仰記」通称「金閣寺」。
私にとっては念願の「金閣寺」です!
映像では見てたけど、ずっと前から生で見たいと思ってたんですよね。
桜や金閣寺のセットが美しいし、物語も凝っていて面白いし、本当に楽しかった!
又五郎さんの大膳はさすが!「国崩し」に相応しい大きさや余裕すら感じられて、華やかで重厚感ある世界を作り出していました。
そして、雪姫の梅枝さんの美しいこと!
直信(壱太郎さん)とは美男美女カップルで、一緒に出てくるところは少ないんですが、なんて見目麗しいんだと思いました。
また、美しいばかりではなく、意志の強さも感じさせて好演でした。
ところで、雪姫は独身ではないんですが、振袖を着ています。まだ子どもがいないからかな。新婚っぽいし。
歌昇さんは久吉が実によく似合う!碁盤を手にしての見得は迫力がありました。
颯爽とした二枚目、捌き役が彼のニンなのかも。
いつか「石切梶原」や「実盛物語」をする日が来るのかな。来てほしいな。
右近さんの鬼藤太。
今回の右近さんは立役ばかりなので美しい女形が見られないのは残念と思っていたんですが、はじけるような勢いはとてもよかった。
そういえば「ワンピース」のマルコもよかったんだよね~!と思い出しました。
種之助さんは化粧の地色のために顔が小さく見えてしまったのは残念でしたが、若くても大人の役をきちんとこなせていたと思います。
とくに大膳と久吉の碁を見ているところがとてもよかった。
幕切れは又五郎さん・歌昇さん・種之助さんの三人で、「わ~、家族や~!」と思って喜んでしまった(笑)。

大切りは「連獅子」。
親獅子は松也さん。
以前南座で見た時は仔獅子だったので(何年前か忘れてたのですが、今調べたら7年前でした)、親獅子の役になったことにちょっと感動。
こういうのも役者が一生をかけてやっていく歌舞伎の醍醐味だなと思います。
さて、松也さん、若いにもかかわらず父親の情愛をにじませて好演。
毛振りにも「さあ、ついてこい!追い越してみせろ!」という気持ちが感じられます。
仔獅子は右近さん。
松也さんとは年が近いので、親子に見えるように、いつもより子供らしさを出していたのではないかと思います
右近さんは24歳ですが、15歳くらいのイメージでやっているように見えました。
もちろん、得意の舞踊も素晴らしく、所作板を大きく踏み鳴らす気迫にも圧倒されました。
間狂言の宗論に出てきたのは玉雪さんと國矢さん。 
國矢さんの最近の活躍ぶりはめざましく、いつも嬉しく拝見しています。
今回も闊達でコミカルな可愛らしさが生きていました。
玉雪さんはコミカルさの中にもどことなく品があり、やはり先輩らしさがありました。

P・S 今回は午前の部・午後の部ともに、開演前に役者さんの挨拶があり(先月の浅草歌舞伎からの流れでしょうか)、午後の部は松也さん、午前の部は新悟さんでした。
どちらも作品の解説、イヤホンガイドと番附(プログラム)の宣伝(笑)などが主なのですが、新吾さんはイヤホンガイドとプログラムの実物を持ち込み、松也さんは自分の出番の宣伝もぬかりなく(笑)、なかなか楽しい挨拶でした。
壽初春大歌舞伎
文楽の次の観劇は歌舞伎でした。
「壽初春大歌舞伎」を昼夜通しで見たので、一日中松竹座におりました。
曽我物や鶴亀など、お正月らしさや襲名らしさを感じる演目、新・芝翫さんにぴったりの時代物、大阪ならではの上方の狂言など、いろんな種類のお芝居・舞踊が見られて楽しかったな。
古典の演目が中心で、特に昼の部は全部の演目が浅葱幕から始まっていてちょっと面白かったです(笑)。

昼の部の最初の演目「吉例寿曽我」は、通称「雪の対面」と呼ばれるもので、秀太郎さんのブログによると、なんと昭和16年以来75年ぶりの上演とのこと。
「寿曾我対面」に出てくる工藤佑経の代わりに、奥方の梛の葉が出てきます。
また、曽我兄弟は一幡・箱王と名乗る子ども時代となっています(ただ、工藤が巻狩りの総奉行に任じられたという話が出てくるので、時系列がちょっと歪んでいます。ま、それも「対面」にのっとって作られた古典の味わいなんでしょうね)。
主要なキャストのほか、舞台に居並んでいるのは、「対面」では大名(男性)なんですが、今回は奥方の側仕えの女性たちばかり。女奴と腰元が互いに当てこすりを言い合い「オホホホホ…」って笑うのも、趣が変わって面白かったな。
ちょっと偉いさんの「局」を演じる新悟さんと梅花さんも品があって美しい。
また、近江小藤太と八幡三郎は、「対面」では動きやすいように袴が半ズボン状態になってるんですが、今回は雪景色ということで寒々しく見えないようにするためか、普通の袴になっていました。
さて、襲名の成駒屋三兄弟ですが、三男の歌之助さんが兄の一幡(十郎)、次男の福之助さんが弟の箱王(五郎)。お兄ちゃんと弟が逆です。そういえば、播磨屋の歌昇さんと種之助さん兄弟もそうでしたね。
歌之助さんの声が祖父の先代芝翫さんとそっくりで驚いた!
兄弟の中で一番おじいさんに似ていると常々思ってましたが、声まで似ているんですね~。
まだ15歳で、立役と女形、どっちの道に進むのかは分からないんですが、色気のある二枚目や女形が似合いそうですね。
福之助さんは隈取が似合い、血気盛んな様子も役にぴったりだなと思いました。
箱王は荒事なのでとても目立つんですが、一幡と並んだ時に着物の着方、中に着る着肉、帯の結び方が全部違っているのがよく分かります。すべて大きく見せるような工夫がされているんですね。
小林朝比奈の橋之助さんはまだ21歳になったばかりですが、蓑を背負って花道を駆け抜けてくる様子に大人の風情があり、驚きました。いつか「対面」でも朝比奈が見られるかなあ。
梛の葉は秀太郎さん。何よりも品格があり、身分の高い奥方の威厳や大きさが伝わってきます。
見る前、梛の葉は夫が討たれてしまうかもしれないのに辛くないのかな?と思ったんですが、巻狩りの手形を渡すところで、夫婦で覚悟を共有している様子が見て取れました。
武家の奥方という立場はとても辛いものだと思いますが、覚悟を持っている様子はさっぱりと潔く、そこが品格につながっている気がしました。

「梶原平三誉石切」は、文楽を原作としていて、奇想天外なところもありますが、とても好きな演目です。
梶原平三の優しさと爽やかさ(このお話の中で私がもっとも好きなところです)がとてもよく伝わってきて、最後にはスッキリとした気分になれます。
またこういうところが芝翫さんにぴったりなんだなあ。
スケールが大きく、心優しく、颯爽とした良い男ぶりでした。
東蔵さんの六郎太夫の台詞回しに隠れた情愛がこもっているのがとても良かった。
ストーリーを知っているからかもしれませんが、家に折紙(鑑定書)を取りに行くよう娘・梢に言う台詞に思わずウルッときてしまいました。
その梢を演じる児太郎さんは化粧のピンク色がちょっと濃いように思いましたが、自分の夫が源氏方の侍であると思わず言いそうになってしまうところに、彼女の逸る気持ちを感じました。

「新口村」は、忠兵衛と孫右衛門を仁左衛門さんが二役で演じられますが、両方ともとても自然で無理がないところが良い。
孫右衛門が息子の忠兵衛に寄せる情愛の心にはいつも泣かされますが、今回は特に身近に感じられました。
そして、梅川を演じる孝太郎さんの充実ぶりが印象的。とくに匂いたつような色香がすばらしい。
遠見の忠兵衛を演じる千太郎さんはまだ10歳ながら大人顔負けの演技で、子役としてではなく「遠見」というのをちゃんと意識して演じていたように思います。
遠見の梅川を演じる子役さんも可愛かったなあ(この役はダブルキャストなんですが、二人とも女の子だそうです)。
松江さんと亀鶴さんは「雪の対面」に続くコンビ出演(笑)で、舞踊としてではなくお芝居の中の万歳と才造というのをきちんと出していたと思います。

夜の部の最初は「鶴亀」。
お正月にぴったりで、神々しい雰囲気です。
長唄の歌詞もおごそかで、すごくいいんですよね。
藤十郎さんの胸を借りて頑張っている三兄弟の引き締まった表情がよかった。
こうやって大御所と共演することはさぞかし若い人たちの励みになるんだろうなと思いました。
藤十郎さんの女帝は美しく高雅。さすがに様になりますね~。

そして、芝翫さん・橋之助さん・福之助さん・歌之助さんの襲名を祝う「口上」。
朝倉隆文氏の舞台美術が刺激的です!
口上の内容は皆さんわりと真面目だったように思いますが、彌十郎さんが芝翫さんの義兄・勘三郎さんの話をされた時に、ちょっと涙が…。
義理の兄弟ですが、まるで本当の兄弟のようにいつも舞台で共演していたなぁ…。勘三郎さん、弟と甥っ子たちのことをきっとどこかで見てくれているんだろうなぁ。
親子四人と同時に、芝喜松さん改め梅花さんの襲名・幹部昇進の披露も行われました。
こういう形での披露は珍しいような気がしますが、長年にわたって地道に頑張ってきたお弟子さんにスポットが当たるのは本当に嬉しいです。

夜の部での芝翫さんの襲名披露興行は「勧進帳」。
三人の子どものうち、橋之助さんとは昼の部の「石切梶原」で共演しましたが、ここでは三兄弟みんなと共演です。
親戚である魁春さんが、珍しく立役の義経で出演されています。
単に珍しいというだけではなく、さすがは魁春さんで、気品があってなかなか良かったな。
仁左衛門さんの富樫は、品格や大きさや人情を感じさせ、また、とても気持ちが理解できる富樫でした。
四天王が富樫に詰め寄ろうとするのを弁慶が押しとどめるところは、力いっぱいの橋之助さんの表情が印象的です。
芝居の終わり、幕外で感無量の思いを見せる弁慶に感動!
今まであんなに気丈に、豪快にふるまっていた弁慶が瞳を潤ませて客席を見つめるんですから、もう、泣きそうになってしまいました。

切は「雁のたより」。
やっぱりこれは面白いですね!コメディタッチですごく楽しいです。
この作品を作ったのは三世歌右衛門、俳名は芝翫。こういったところでもさりげなく襲名をお祝いしていますね。
鴈治郎さんの五郎七の可愛らしさ、飾らない気性がとてもいい。
なんと、恋ダンス(?!)まで見せてくれます(笑)。
それはさておき、お芝居をお芝居と感じさせないような自然な演技で魅了してくれました。
上方の世話物は普段話している言葉に近いので親近感があるんですよね。
司を演じる児太郎さんがとても美しく、お芝居も大人っぽくて驚きました。
孝太郎さん、ここでもすごく良かったなあ。
こういう花車方は伯父さんの秀太郎さんが抜群に上手いんですが、台詞回しや動きなどに秀太郎さんを彷彿とさせるものがあります。
亀鶴さんの若殿は、初日のNHKの映像よりもはんなりした感じが増して、セリフも聞き取りやすく、やっぱりこの人は上手いなと感心しました。
侍トリオが前回の上演より大幅に若返っている!これくらいの年齢が等身大なのかな。
松十郎さん、千次郎さん、かなめさん、若手の活躍にワクワクしました。
若手といえば、超若手の未輝さん、すっかり青年らしくなりましたね!これからが楽しみだ。
芝翫さんも若旦那の役で出演。
「あんた、いつ見てもエエ男やな~」と、何やら言いたげな(笑)鴈治郎さんに「よけいなこと言わんといてぇな」と言う芝翫さんがおかしい~!
あと、鴈治郎さん、また「あの鴈治郎という役者は芝居が終わったらまっすぐ家に帰りよる」って言ってました(笑)。ほんまかいな(笑)。
最後は五郎七のキリッとした面も見られて(家老役の彌十郎さんがいい味を出していました)、ハッピーエンドで気持ちよく帰れる作品でした。

P・S 前日まですっかり忘れてたんですが、この日はえべっさん(十日戎)でした。
開演前、松竹座の前にカワイイ福娘がいて、「あ!そういえば」と思ってたら、鴈治郎さんと孝太郎さんが宝恵駕籠に乗って来ました。あと、文枝師匠と山村友五郎さんと三倉茉奈ちゃんも。
戎橋の袂には舞台があって、文楽や大西ユカリさんやOSKのミニライブも上演されてました。
文楽の人形を持って歩いて来られるところにも遭遇できてラッキーでした。
来年も一月十日に観劇しようかな(笑)。
先斗町で顔見世
いまだに年末感ゼロなんですが(笑)、師走の風物詩・顔見世に行ってきました。
今年は南座の耐震工事のために、先斗町歌舞練場での開催です。
でも、これがものすごくよかった!
先斗町歌舞練場というところは戦前の雰囲気をよく残した劇場(昭和2年に建てられたそうです。ちなみに私の祖母と同じ年(笑))で、席数が500ちょっとだったり、今でも升席があったりして、劇場というより芝居小屋、観劇というより芝居見物と呼ぶにふさわしい、古き良き風情が味わえます。
かねてから昔の芝居小屋で芝居を見てみたいと思っていたのですが、今回、はからずもそれが叶いました。
そして、驚くべきは舞台と客席の近さ。
客席に入って、まずは自分の席を探して下ばかり見ていたのですが、座ろうとして正面を見てびっくり!
近い!2階席なのにこんなに近くていいのか!(笑)
(この近さで思い至ったのが、なぜか、スーパー歌舞伎の「ワンピース」。猿之助さんが客席に近いところで宙乗りをし、歌いながら観客を見つめていたのは、もしかしたら昔の劇場の距離感を再現しようとしていたのかも。司会者の方、評論家の方、どなたか、その点をインタビューしていただけないでしょうか)
しかも、私が見た日は宮川町の総見。
愛らしい舞妓さんや美しい芸妓さんがいっぱいで、戦前へのタイムスリップ感がさらにアップしていました。
12月の舞妓さんといえば、まねきの簪。
好きな役者さんに名前を書いてもらうのですが、紅で書かれた「雀右衛門」の文字が襲名の気分をより高めてくれます。

さて、顔見世の11時の部は「実盛物語」と「道行旅路嫁入」。
「実盛物語」は、映像では見たことがありますが、生で見るのは初めて。
それがこの歌舞練場で本当によかった。
近江のとある民家で起こる出来事というシチュエーション、哀切極まりない家族の物語、そして実盛の爽やかな人柄…。
ダイナミックかつ細やかに展開される人情の世界が、この劇場の大きさや舞台と客席の近さにぴったり。
初役で実盛を演じる愛之助さんは浮世絵から抜け出してきた感がますます強くなり、古風な色気が出ていたと思います。
瀬尾十郎を演じる亀鶴さん、うまいなあ!
身体能力の高さもさすがだし、何より迫力や情愛の示し方がとても良かった。
この役はきっと亀鶴さんの当たり役になっていくだろうと予感させてくれます。
娘を失うことになる松之助さん・扇之丞さんの老夫婦に涙、涙…。
命を落としてなお御台様(吉弥さん)の身を案じる小万(友右衛門さん)の健気さにも涙…。
また、子役ちゃんの愛らしいこと!この太郎吉は大役だなあ。
もう一度、こういう小さな劇場で見てみたいと思う演目でした。

「道行旅路嫁入」は何度も見ていますが、景色が次々と変わる楽しさと、踊りに込められた母娘の思いの切なさがいつも印象的。
結婚を前に起こった諸々の事情ゆえに不安でいっぱいの娘と、それを明るく優しく励ます母(まだ若い義理の母なので、どこか友達のような明るさも漂っている)。
藤十郎さんの戸無瀬からは、なんともいえないあたたかな風情が漂っています。
不安に駆られながらも、恋しい人と夫婦になることを夢見る可憐で健気な小浪の雀右衛門さん。
いくつになっても初々しい娘を演じられるところがさすがだなと思います。
二人とすれ違う奴は鴈治郎さん。
翫雀さんだった時にもこの役を見ましたが、その頃よりも飄々としたおかしみが増していて、よけいな力が入っていないところが素敵。
こういう役はすごく似合いますね。
また、終盤に行われた雀右衛門さんの襲名披露口上に感動。
藤十郎さんと雀右衛門さんの二人だけなんですが、芝居に引き続いて温かみが感じられ、先代の雀右衛門さんとたくさん共演された藤十郎さんだからこその、親代わりのような気持ちも感じることができました
雀右衛門さんも、この名前がだんだん板についてきたような風情があり、これからもますます期待できそうだと思いました。

三部制のお芝居は今回初めて見ましたが、上演時間は短いながらも充実した二つの演目を見ることができてなかなか良かったです。
もちろんこの時間配分に賛否両論はあると思いますが、顔見世はお手ごろな値段のチケットがなかなか取れないので、何年かに一度は三部制でもいいなーと思いました。
中村勘九郎・中村七之助 錦秋特別公演
文楽を見た翌日は歌舞伎でした(このタイミングでしか見に行けなくてねぇ…。そしてまた疲労する)。
京都のロームシアターで「中村勘九郎・中村七之助 錦秋特別公演」を観てきました。
久々の歌舞伎、楽しかった~。
ロームシアターは始めて行きましたが、外観は古いものの(けど、それがいい味を出している)、内装は大幅に改装されたらしく、きれいでトイレも多くて便利。
ただ、客席は飲食禁止なのに、ロビーには飲食できるような椅子等がほとんどなくて、物を置くところもないような場所で立って食べなければいけないのは不便ですね。

それでは、プログラムの順に紹介していきます。
まず最初は「歌舞伎塾」。
これは初の試みで、歌舞伎俳優の楽屋での準備の様子、立役・女形が出来上がるまでを舞台の上で見せ(分かりやすいようにスクリーンに映したりもします)、そこに歌舞伎の囃子方さんと若手役者さん、お客さんの有志による舞台での効果音の実演や勘九郎さん・七之助さんのトークや質問コーナーも盛り込んだもの。
トークと質問は例年「芸談」というコーナーで行っていたのですが、時間が短くて、なかなか質問に答えられなかったり、お客さんと触れ合えなかったりするのが残念ということで、準備の様子を見せながら、時間を多く取って行うことにしたそうです。
今年は南座の工事で歌舞伎鑑賞教室がなかったので、ここでこういった演目を見られてよかったな。
楽屋入りから本番の踊りまでの様子を見せるのは中村屋一門のいてうさん(そのまま「いてう」と読まずに「いちょう」と読みます)と鶴松さん。
ひげを剃ったり、びんつけ油で眉毛を消したりというところから、化粧をしたり衣装をつけたりするところまで(衣装部さんや手伝う他の役者さんも出てきます)、勘九郎さん・七之助さん、そして、司会を務める澤村國久さん(勘九郎さん・七之助さんの伯父である澤村藤十郎さんのご一門ですね)の楽しいトークを交えながら進んでいきます。
國久さんの話しかたは、ハキハキしたところやどこか愛嬌があるところなどが澤瀉屋の市川猿四郎さんに似ている気がします。
途中から中村屋最年長の小三郎さんも参加して、テンション高く(笑)、若々しく、見得の説明などをされていました。
また質問コーナーも行われ、先日行われた叔父の芝翫さん襲名披露公演で行われた口上でのこしらえについて(女形が多い七之助さんも立役で出ていたけれど、口上の時に立役と女形、どちらの姿で出るかはどうやって決めるのか?)や、嵐ファンでもある方から、嵐のライブの松本潤さんのソロの場面で使用された、亡き勘三郎さんをはじめとする中村屋一家の映像についての質問がありました。
まず、口上については、女形の姿での口上は六代目歌右衛門さんが考案したものだというお話が。
それまでは女形も口上の時は立役のこしらえで出ていたそうで、現在は、真女形(女形専門の役者)が立役の鬘で出るのはちょっと恥ずかしい…と思う場合に女形のこしらえで出演されるそうです。
もう一つ、口上について、中村屋と成田屋で60年に一度だけ行う口上があるとのこと。
そして、その60年に一度がもうすぐ来るそうです。(わーい!)
ちなみに、なぜ中村屋と成田屋かというと、江戸時代、中村屋は座頭(劇場主)、成田屋は看板役者だったからだそうです。
元々は二人で口上を行ったそうですが、勘九郎さんから「私たち(兄弟)は二人で一つですので、海老蔵さんと三人で」との言葉が。
とても弟思いで優しい勘九郎さんに思わず感動してしまいました。
また、嵐の松本さんのエピソードも感動的。
勘三郎さんだけではなく、蜷川幸雄さんなど、お世話になった方々の映像も出てきて、ライブ会場は涙・涙だったそうです。
もちろん、映像の使用にあたって勘九郎さん・七之助さんへの事前報告があり、松本さんが亡き勘三郎さんを今でも慕い、思い出してくれることにとても感謝しているとのことでした。
そして、いてうさんと鶴松さんの拵えが出来上がったところで、「草摺引」の踊りへ(その前に衣装や化粧についても色々と解説があり、分かりやすかったです)。
舞鶴を演じる鶴松さん、立派になったな~!
あの小さかった子役さんがこんなに素敵な女形の姿を披露してくれて感無量でした。
役としても、女武者のキリリとした風情にあふれていて良かったです。
いてうさんの曾我五郎は、持ち味である闊達さが生かされ、踊りもきびきびとしていて、スカッとした雰囲気があります。
そしてやっぱり、師匠の勘三郎さんの踊りを思わせるようなところがあって、ちょっと鼻の奥がツンとなってしまったなぁ…。

二部と三部は七之助さん、次いで勘九郎さんの踊り。
七之助さんは「汐汲」、勘九郎さんは「女伊達」をそれぞれ披露。
「汐汲」は、玉三郎さんと七之助さんが踊った「二人汐汲」は見たことがありますが、単独なのは初めて。
改めて、こういう踊りだったのかと認識しました。
一人で踊ると、切なさや思いを込めた踊りだというのがよりよく分かりますね。
後半は三段の傘を使った華やかな踊り。
愛した人をしのぶ海女の心情を踊る舞踊がこういう華やかな形に変化していくのも、歌舞伎舞踊の醍醐味だなと思いました。
「女伊達」は、江戸の吉原の桜の頃を背景にした、華やかで楽しい、大好きな舞踊です。
松竹座で片岡孝太郎さんたちが踊ったのを観ましたが、またちょっと雰囲気が違うようにも感じました。
勘九郎さんの女形が色っぽくてオドロキ!
立っているだけでも女の感じが出ていると思います。
男たちにふっかけられた喧嘩をあしらう振りがお洒落で楽しく、もっと見たいと思ったくらいでした。。
「草摺引」も含めて三曲とも歌舞伎初心者の方でも分かりやすく、なおかつじっくりと見ることができる演目で、なかなかよかったです。
それと、今年は関西の歌舞伎の興業が少なくて淋しかったので、この公演があって嬉しかったです。
来年以降、もっと歌舞伎をやってほしいな~。
来月は先斗町歌舞練場での顔見世を観に行きますが、南座の耐震工事も無事に終わってほしいですね。
夕霧名残の正月
21日に、七月大歌舞伎の昼の部「夕霧名残の正月」を幕見してきました。
ホントに短い舞踊なんですが、美しくて詩情にあふれていて、いい一幕でした。
物語は「吉田屋」に出てくる夕霧と伊左衛門のお話なのですが、こちらのほうが先にできた話で、史実どおり夕霧は若くして亡くなっています。
恋人の死に目に会えなかった伊左衛門の元に夕霧があらわれ、二人で過ぎし日のように幸せに踊るが、彼女は幻で、四十九日の日に伊左衛門に会いに来たんだな…と皆が思いを馳せます。
たったこれだけといえばこれだけなんですが、藤十郎さんの伊左衛門の優美さ、雀右衛門さんの夕霧の透明感にうっとりと酔い、最後にはじんわり泣かせる素敵な作品です。
雀右衛門さんがこれまた亡くなった先代によく似ていて、一瞬、さまざまな狂言で共演した藤十郎さんに四代目が『せがれもお世話になります』と会いに来たかのように錯覚してしまうほど(藤十郎さんご本人は伊左衛門になりきっているのでそんな感覚はないかもしれませんが)。
ほか、ザ・上方な秀太郎さんのおふさ、優しい風情の友右衛門さんの三郎兵衛、息がぴったりな廣太郎さん・廣松さん兄弟の幇間なども楽しく見ることができました。
本当に美しい舞踊なので、また何かの機会に見れたらいいなと思います。